『となりの棗くん』番外編 ~持つべきものは~ 解答編
頭をひねって考えたり、満足そうに眺めていたり、にこにことお菓子をすすめたり。
テーブルの上にはドーナツ、輪ゴム、それにチューブみたいなもの。
食堂の賑やかしい集団。探すまでもなく、彼はその中心にいた。
「棗くん、ここにいたのね」
「おう。何かあったか?」
「例の書類、打ち込んで印刷しておいたの。確認してもらえる?」
「ちょうどよかった。使わせてもらおう」
「オレたちの名前が書いてあるな。なんかの名簿か?」
「これが何かのヒントになるのか」
「僕の名前が一番上なんだね」
「リーダーだからな」
「あら、何の話?」
「詳しくはカクカクシカジカだ」
「ふうん、なるほどねえ」
「さっぱりで頭ぼーん!だ」
「むずかしいのですー」
「そんなときは糖分補給ですよ~。はい、どーなつ、あーん」
「もぐっ! やっぱり小毬ちゃんの選ぶお菓子はサイコーですネ」
「こら葉留佳、お行儀が悪いからやめなさい」
「でも、これだと手がかりが掴みにくいかもしれませんね」
「どれ、私がさきほどの数字を書き足してやろう」
「ってことは、名前に関係あんのか」
「あたしとバカ兄貴はそんなに変わらないぞ」
「恭介と鈴の違い…なんだ?」
「恭介に1個あって鈴にない……?」
「真ん中をよく見てみろ」
「真ん中…あ!」
「こういうこと?」
「ご明察だ」
「じゃあ、こいつらはこーなのか」
「うむ、察しのいい子は私は好きだよ」
「わっ、なでなでするなー!」
「りんちゃん、すごいねえ~」
「ということは、小毬さんは…」
「こうなんだね」
棗くんは言葉ではなく、満足そうな笑みでそれに答えた。
その後もわいのわいの、いつものような大喧騒。
本来の目的を忘れてその場を離れそうになったとき、神北さんが少しだけ寂しそうな顔をした。
「クイズなんだけど、鈴ちゃんに『ない』のはちょっと寂しいね……」
「そんなことないぞ」
棗くんはそう言うと、ごく自然な仕草で、鈴ちゃんの左手と、神北さんの右手をとった。
それを察した神北さんが、能美さんの袖に左手をそっと添える。
少しずつつながって、自然に輪がつながっていく。
最後に手をつないだ来ヶ谷さんが、直枝くんに微笑みかける。
直枝くんはうなずくと、鈴ちゃんの右手に優しく触れ、小さな手を包んで言った。
「これで『ひとつ』だね」
(了)
おわび:出題編にて、「二木佳奈多は『2』」という記述がありましたが、『2または0』、もしくは『しいて言えば2』が適切な記述でした。おわびして訂正いたします。